東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと1週間を切った。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回とりあげる作品のタイトルは《希望の無意識グラフィティ》。その制作チームのリーダーを務める佐々木竜太郎から、制作展について、そして作品について語ってもらった。
「せっかくなら、価値にお金を払うより、価値を生み出す方に参加したほうがいい」
―佐々木竜太郎《希望の無意識グラフィティ》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと1週間を切った。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回とりあげる作品のタイトルは《希望の無意識グラフィティ》。その制作チームのリーダーを務める佐々木竜太郎から、制作展について、そして作品について語ってもらった。
「『破壊』を考えることが、先の見えない新しさを考える上でのヒントになる」
―制作展の参加を決めた理由を教えてください。
大学1年のときに取った記号論の授業で情報学環の先生に会いました。先生との出会い、記号論との出会いは、自分の中で非常に重要なものでした。大学を卒業して先生と同じ情報学環の一員になり、あの出会い以降これまで学んだこと、考えたことを、制作展で出してみようと思いました。
―今回の東京大学制作展2021Extraのコンセプトは「0PUNK」です。佐々木さんは「0PUNK」をどのように解釈しましたか。
コンセプトを決める会議で0 PUNKという案が出た時、パンクという破壊的なものは、新しいものを生み出すきっかけになることを、自分含めみんながなんとなく考えていました。世の中に今当たり前のようにあるものも、昔は異質で破壊的なものだったんです。「破壊」を考えることが、そこから先の新しさを考える上でのヒントになるのではないか。そのような考えに自然とたどり着き、スクラップアンドビルトとか、創造的破壊といった言葉が思い浮かびました。
「せっかくなら、価値にお金を払うより、価値を生み出す方に参加したい」
―それでは次に作品制作についての質問です。今回、《希望の無意識グラフィティ》を制作するにあたって、参考にしたものや影響を受けたものなどはありますか。
PUGMENTというアート寄りなファッションブランドのデザイナーさんと何度か会ったことがあるのですが、ある時、そのデザイナーさんが主催の、みんなでひたすらベニヤ板に色々なことを書いて、その過程を展覧会で見せる、というワークショップに参加しました。参加者は自分含めみんな一般公募の人でした。そうした素人が作ったものが作品になる、というのはちょっと不思議で面白かったのを思えています。一般の人の行為の集積でも、参加したり見たりすると気づきがある。ならばそれもアートでいいのだ、と気づきました。 作者の独創的な頭の中を見せるアートも好きだけど、自分が例えば草間彌生さんみたいになれるかと言われるとなかなか厳しい。でも、こうした人と人の関係性を作り出す作品なら制作展で自分もできるかもしれない。そう思いました。
制作中は、グラフィティを取り入れる関係で、東大ストリートカルチャー同好会さんに協力してもらいました。普段ならまず関わり合いになることがない人たちなので、最初はかなりドキドキしましたが、かなりの時間を割いて一緒に作業したり、議論したりしてくれました。作品のおかげで、このような新たな関係性が生まれたのは良かったと思います。
ー《希望の無意識グラフィティ》を制作するにあたって、どのようなことを着想しましたか。
コンセプトに沿って、何かしら、パンク的なカルチャーをリスペクトしつつ、それを拡張するような作品を作りたいと思いました。パンク、という英国的な文脈からは外れるのは承知の上で、グラフィティという破壊的な創作活動を選んだのは、バンクシーのように、グラフィティそのものが、一つの作家性を持った芸術作品として、現在アートシーンで広く受け入れられているところにありました。現在、1人1人の作家性が強くなったグラフィティというものをもう一度集団的な文脈に戻して、集団的な創作活動としてのグラフィティの可能性を引き出したら面白いのではないかと考えました。
―「集団」という言葉が本作品のキーワードのように感じました。なぜ「集団」にこだわるのですか?
記号論の先生と出会ったり、先述のワークショップに参加したりなど、色々な人との出会いの中で、アートや創作活動は、ただ鑑賞者として終わるのではなく、みんなが参加することに意味があると思うようになったからです。アートは何もないようなところから価値を生み出すような、そんな生産的なプロセスだと思います。せっかくなら、価値にお金を払うより、価値を生み出す方に参加した方がいい。この作品も参加型です。読者の皆さんにも、無事この作品が完成したらぜひ作品制作の一員になっていただきだいですね。
(聞き手・記事執筆者 服部渉)
佐々木竜太郎(ささき・りょうたろう)
東京大学学際情報学府総合分析情報コース所属。東京大学制作展2021Extra「0PUNK」で出品される《希望の無意識グラフィティ》の制作リーダーを務める。また、記録班として制作展運営にも携わっている。
「人間の原点といったら、赤ちゃんしか思いつきませんでした」
―小山このか《ゼロマインド〜0歳児パンク〜》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと1週間を切った。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回は《ゼロマインド〜0歳児パンク〜》の制作者、小山このかに焦点を当てる。一児の母と東大院生を両立する彼女が、日々の生活からどのような刺激を受け、どのように制作展と向き合ったのかを探っていきたい。
「人間の原点といったら、赤ちゃんしか思いつきませんでした」
―小山さんは、本制作展のコンセプトである「0PUNK」という言葉を聞いて何を連想しましたか。
パンクというテーマを聞いて真っ先に連想したのは、《Cyberpunk 2077》というゲームです。昨年、旦那が《Cyberpunk 2077》にハマっていて(バグっていて)、育児を手伝ってくれなかったのを、つい思い出してしまいました笑
―そのコンセプトを受けて小山さんによって制作された作品が《ゼロマインド〜0歳児パンク〜》です。この作品を着想した理由を教えてください。
パンクは社会批判的な一面が強いと思うのですが、私自身アイロニカルなメッセージ性を持つ作品を作ることが多かったので、パンク精神に親近感を感じました。また、「0」から「原点」を連想しました。 人間の原点といったら、赤ちゃんしか思いつきませんでした。私には今年で1歳になる息子がいるので、24時間営業の育児を通して、段々と息子のことしか考えられなくなってきたのが原因かもしれません。そういうこともあって、赤ちゃんのゲームである《ゼロマインド〜0歳児パンク〜》を作ってしまいました。それに、人間の最初の反抗期は赤ちゃんの時だと思うので、赤ちゃんパンクな作品を作ろうと決めました。
作品の中身は息子の行動がヒントになりました。ハイハイしながら何処かに行ってしまうことが多々あり、そこから赤ちゃんが冒険を繰り広げるという、このゲームの着想に至りました。
―この作品の大きなテーマである「赤ちゃん」という存在について、小山さんはどのように考えているのでしょう。
「赤ちゃん」は、可能性溢れる存在だと思っています。大人は「赤ちゃん」を、単に可愛いものとして消費しがちです。でも「赤ちゃん」は可能性溢れる存在で、今の世界を更新していく力を秘めているものとして、敬意を持って接したほうが良いと思っています。そうした赤ちゃんの可能性の広さが、場面展開の多いこのゲームと、うまくマッチしている気もします。
今回は胎児と赤ちゃんの頃の記憶といった、赤ちゃんの夢のような抽象的な作品を作りました。なので、秋の制作展では、より具体的な内容にしていって、コントラストを持たせたいです。
「息子が寝静まった深夜に、夜なべしながら一人で作ったゲームです」
―この作品はゲームということですが、表現手段についてはなぜゲームを選択したのですか。
ゲーム界が男性社会であることから、女性視点のゲームを作りたいと思ったからというのが一番大きな理由です。あと、ゲームを作れば、ゲーム中毒の旦那に振り向いてもらえるかなと…淡い期待を抱きながら頑張って制作を続けています。旦那には、赤ちゃんのゲームをしてもらうことで、ぜひ育児に関心を持ってもらいたいです。
―最後に一言お願いします。
息子が寝静まった深夜に、夜なべしながら一人で作ったゲームです。 主婦が作った地味なゲームかもしれませんが、誰か一人にでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
最後に、このゲームを作れたのは家族のおかげです。色々ドタバタはありますが、日々息子と旦那に感謝しています。このゲームを家族に捧げます。
(聞き手・記事執筆者 服部渉)
小山このか(こやま・このか)
東京大学大学院学際情報学府学際情報学専攻社会情報学コース所属。2019年には東京藝術大学会館と三木美術館の二箇所において「小山このか個展」を開催・展示した。東京大学制作展2021Extra「0PUNK」では《ゼロマインド〜0歳児パンク〜》を出品する。また、会計として制作展運営にも携わっている。
「感じ方には個人差がある。正解がないからこそ面白いと思っています」
ー韮澤雄太《錯指》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと4日。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回取り上げる作品は《錯指》。その制作チームのリーダーを務める韮澤雄太から、制作展について、そして作品について語ってもらった。
「工学的な視点で行われていた研究を医学的視点で行ったら面白いのでは」
―制作展の参加を決めた理由を教えてください。
もともと4年生のころ、医療工学系の研究室に在籍していました。工学的な視点で行われていた研究を医学的視点で行ったら面白いのでは、と思い大学院に進学することを決めました。参加のきっかけは入学が決まった約1年前にこの制作展の存在を知り、私も先輩方のような素晴らしい作品制作に携わってみたいと考えたからです。今まで制作展のようなものに参加したことはなかったのですが、自分の研究を応用してみたいと思い参加を決意しました。
―今回の東京大学制作展2021Extraのコンセプトは「0PUNK」です。韮澤さんは「0PUNK」をどのように解釈しましたか。
当たり前や常識にとらわれない、最高の考え方だと思ってます。自分が常識だと思ってることって、他の人から見たら非常識に見えることって意外とよくあるんですよね。主観で物事進めるのであれば、考え方は多様であるべきで、忖度や古き良き習慣を取り入れなければならないということはないはずです。物事に対する見方や考え方に刺激を与えることができる、そんなテーマではないかなと思います。
「感じ方には個人差がある。正解がないからこそ面白いと思っています」
―それでは次に作品制作についての質問です。今回作られた作品《錯指》ですが、本来「さくし」という読みの漢字は「錯視」があてられますよね。何故、「視」ではなく「指」をあえて使ったのでしょうか。
今回「目で見る錯視」を応用して「感覚を指で感じる」という現象を実装しています。錯視することによって、指に感覚という力を与える、ということで「指」という漢字をあてました。この現象は”Pseudo-haptics”と言います。(身体動作を反映するカーソルの位置や速度を適度に変化させることで、触力覚提示デバイスなしに擬似的な触力覚えおユーザーに近くさせることができる現象)
個人が感じる触力覚にはもちろん、錯視の具合によって個人差があります。このように、感覚の正解がないんです。だからこそ面白いと思っています。自分が感じている感覚、触覚は他人と同じではないし、他人の感覚、触覚は無数に存在しています。これは「0 PUNK」の考え方と少し類似していますね。
―今回、《錯指》が提供する世界観はどのようなものでしょうか。
誰も体験したことがない世界観だと思います。一種の力学提示のようなもので、目で見える情報と指で触れる情報が重なり合っている、誰もまだ表現できていない分野をいち早く体験してもらえたらと思います。
(聞き手・記事執筆者 日比杏南)
韮澤雄太(にらさわゆうた)
東京大学大学院学際情報学府学際情報学専攻先端表現情報学コース所属。東京大学制作展2021Extra「0PUNK」で出品される《錯指》の制作リーダーを務める。また、PR班として制作展運営にも携わっている。
「窮屈な世界から、気構えない世界への転換」
ー藤原寛奈《Close To Me》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと4日。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回取り上げる作品は《Close To Me》。その制作チームのリーダーを務める藤原寛奈から、制作展について、そして作品について語ってもらった。
「去年に引き続き、2年目の参加です」
―制作展の参加を決めた理由を教えてください。
研究の一環として制作している作品を多くの人に見てもらえる機会が欲しかったからです。実は去年の東京大学制作展2020も参加しました。制作展参加は2年目ということで、後輩の企画に乗っからせていただく形です。後輩のみなさん、本当にありがとうございます!
―今回の東京大学制作展2021Extraのコンセプトは「0PUNK」です。藤原さんは「0PUNK」をどのように解釈しましたか。
世界中がコロナ禍で一変し、東京オリンピックを目前にかつてない状況にある今、そんな騒々しい時代にわざわざ大学院に入り、それぞれの専門分野を持って研究している東京の学生が、何を今壊して、新しく作り替えるべきだと感じているのか、それが表れるコンセプトだと解釈しています。
「窮屈な世界から脱する。コロナ渦の流れに合った世界へ」
―今回の作品《Close To Me》を着想した理由はなんでしょうか。
まず、昨年5月に発刊された岐阜新聞の「錯視」を用いた新聞広告に影響されました。その広告を離れたところから見ると「離れていても心はひとつ」という文言が浮かび上がってくるんです。コロナ禍でダメなことや気をつけることが多い毎日に窮屈さを感じ、もっと気軽に、気構えずに意識をコロナ禍に合うように変えられないのかなと思ったところから着想しました。
―《Close To Me》はどのような作品ですか?
昨年と同様に、距離から生まれる錯視を意識した作品になっています。作品との距離感で作品の見え方が変わるようになっていて、コロナ渦であることを意識したメッセージも含まれているのでぜひ楽しんでください。
―最後に、読者の皆さまへ一言お願いします!
今年もオンライン開催ではありますが、全く違う展示になりそうで、私もとても楽しみです!オンラインですので、時間や場所を気にせずに、気軽に楽しんでいただけたら嬉しいです。
(聞き手・記事執筆者 日比杏南)
藤原寛奈(ふじわらかんな)
東京大学大学院学際情報学府渡邉研究室修士2年。昨年の東京大学制作展「WHO ZIPS YOU?」「弛む」に引き続き2年目の参加。
「臓器の音に耳を傾けて」
―周依琳《Organs》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと3日となった。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回は《Organs》の制作リーダー、周依琳に焦点を当てる。今回の制作展Extraの中でも一際異彩を放つOrgansの作品たち。その制作リーダーの彼女は作品にどんな想いを込めたのだろうか。
「とにかく作品が作りたい」
―Organsはとても奇妙で魅力に溢れる作品ですが、なぜ作ってみたいと思ったのですか?
とにかく作ってみたかったからです。最初の衝動は、ただ「楽器と臓器の形って似てるじゃん、臓器を楽器にしてみたらどうなるの?」というごくシンプルなものです。今回の制作展のテーマが「PUNK」なので、この発想も狂気じみていてとてもPUNKだと思っています。
―周さんの考える「0PUNK」とはなんですか?
0は新しい生命が生まれる場所だと捉えています。0PUNKは普段巡り会わないであろう存在が出会い、新しい生命を育む機会を与えていると考えています。今回の作品で言うと、Organsつまり臓器たちは普段は特に意識することのない身体の内部にあります。皆さんは、臓器が私たちを生かしていると思いますか。それとも私たちが臓器に生かされているの思いますか。臓器を新たに楽器として捉え直すことで、この問いを一緒に考えてみましょう。
「臓器の音に耳を傾けて」
―「新しい生命への出会い」がこの作品の中に込められているんですね。
臓器を楽器にすることで、「新しさ」への出会いはあると思っています。臓器を楽器したら、何が生まれ、人間はどのような感情になるのでしょう。それは、作品に触れて初めて知覚できるものです。私たちがどのようなメッセージを込めたのか、また鑑賞者が作品から何を読み取るのか、それは全くの自由です。とにかく見て、聴いて、感じて、臓器の奏でる音に耳を傾けてください。鑑賞していただける方の感じたことを、大切にして欲しいです。これ以上深くは、鑑賞にバイアスをかけてしまうので10日のウェビナーで直接お話しします。ぜひあなたの感じたことを教えてください。
―最後に、何の臓器が何の楽器になるか少しだけ教えていただけませんか?
それもここでは秘密にしておきます(笑)どんな臓器が何の楽器としてどんな音を奏でるのか、是非ご自身の感覚で確かめてみてください!
(聞き手・記事執筆者 市倉愛子)
周依琳(しゅう・いりん)
東京大学大学院学際情報学府学際情報学専攻先端表現情報学コース所属。制作展Extraではデザインリーダーも務めている。
「人間の『連想過程』をアートにしたい!」
―周寧《I-mage》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと3日となった。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回は《I-mage》の制作者、周寧に焦点を当てる。AIによって人の記憶の可視化を試みる彼はどのような思いでこの作品を作ったのか。紐解いてみたい。
「人間の『連想過程』をアートにしたい!」
―作品を着想した理由を教えてください。
私は記憶、特にエピソード記憶に興味を持っています。人々はそれぞれ各人に固有の記憶を持っていますよね。それをアートにすることができれば、今回のテーマである「PUNK」にとても忠実かつ面白い作品が作れるのではないかと思いました。
―作品制作にあたり、参考にしたものはありますか?
あります。作品名で言うとGoogleのDeep Dream、技術で言うとGAN画像生成を参考にしました。これらの作品や技術を見て、単に奇妙な画像を生成することを超えて、自分自身が興味を持っていた「記憶」の可視化することが出来るのではないか?と考えました。最初は、頭に電極をつないで脳内のイメージをそのまま可視化することを考えましたが、メンバーと話し合いを進めるうちに、人間には「言葉」があることに気が付き、一度言葉を経由して連想をし、その言葉から画像を生成することで「記憶の可視化」になると考えました。
「脳内ネットワークを外に取り出してみました」
―この作品の見どころはどこですか?
I-mageでは、「記憶の可視化、比較、対比」を軸に2つのテーマで作品を制作しました。まず一つ目は、私とメンバーである市倉さんの連想の対比です。二人はそれぞれ“PUNK”を含んだあるー文から連想を始めました。連想は個人によって当然異なっているので、最初の一文以外はどんどん生成される画像(I-mage)が変化していきます。同じ東京大学大学院学際情報学府所属、また記憶に興味を持つ二人の学生の連想がどのように異なっていくのか、比較を楽しんで欲しいです。
二つ目の作品は、アインシュタイン、シェイクスピア、モネという三人の偉人の名言を画像として生成し、比較しています。この三人を選んだ理由は、科学者、劇作家、芸術家という異なる表現法を持つ偉人であるからです。彼らの思考はきっと少しずつ異なっている。でももう会うことの出来ない人物であるが故、何を見てどう感じていたのかは想像することしか出来ません。どんな人間でも、頭の中に思考のための「ネットワーク」を持っているはずです。私たちは、そのネットワークを「言葉」と「自動生成画像」の力を借りて外に取り出してみました。それぞれどんな画像が生成されているのか、楽しみにしていて欲しいです。
―最後にあなたにとって「0 PUNK」とは?
PUNKの抽象化、そしてその精神的意思を抽出して、表現に応用することだと思います。私たちが制作した、「0PUNK」を是非ご覧ください。
(聞き手・記事執筆者 市倉愛子)
周寧(しゅう・ねい)
東京大学大学院学際情報学府学際情報学専攻文化・人間情報学コース所属。渡邉英徳教授のもと、「記憶想起アート」に関する研究をしている。今回の制作展 2021 Extra 0PUNKのメインビジュアルのデザインを担当した。
「空は曇っているけれど、心はいつでも青空さ」
―道下千穂《Blue Skies》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと3日となった。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回は《Blue Skies》の制作リーダー、道下千穂に焦点を当てる。雨の日の窓を題材に参加者が童心にかえることができるような本作品。この作品にはどのような想いが込められているのか、リーダーの彼女に取材した。
「祈る方法を探すこと」
―道下さんにとって、「0PUNK」とは何ですか?
端的に言うと、「祈る方法を探すこと」です。何かの逆境立たされた時や、困難に直面している時、その状況をどうにか改善したい、ポジティブなものに方向転換していきたい。その祈りを具現化する手段が今回の「0PUNK」だと思っています。
―作品の中にも、ポジティブな方向転換への祈りが込められていますよね。
はい。今の社会では、みんなが新型コロナウィルスによって物理的も精神的にも閉じ込められていますよね。ステイホームが強いられる中で何ができるか、どう楽しみを見つけるかを考えた時に「雨の日」を思いつきました。家に閉じ込められて、気分が沈むというのはウィルスでも雨でも同じです。そんな時、私は小さい頃にどうやって楽しみを見出していたかを考えたら「窓へのお絵描き」にたどり着きました。
「空は曇っているけれど、これからは僕の心はいつでも青空さ」
―この作品のタイトルは、実在する曲と同じだと伺いました。どんな曲何ですか?
作品名は、ジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」という小説の中で主人公が歌っていた曲「Blue Skies」からネーミングしています。この曲は、「空は曇っているけれど、これから僕の心はいつでも青空さ」という意味が込められています。ちょうど私たちの制作している作品と同じコンセプトを持っているので、ぜひ聴いてみて欲しいです。作品中に同曲は流れていませんが、ご自身で流しながら作品に参加していただくのも、作品の楽しみ方の一つではないかと考えています。
―窓に描く絵、とてもワクワクします。参加する時はどのように楽しめばいいですか?
画面に現れる窓に、指を使って自由なお絵描きを楽しんでください。また、この作品では窓が曇っている日だけできるお絵描きの特別感とともに、一瞬一瞬の偶然性も重要な要素となっています。指で描いた線は時間が経つにつれ消えて行ってしまうため、二度と同じ絵が現れることはありません。一瞬一瞬に描かれる線によって現れる絵を、大切に想いながらご参加ください。この作品によって、参加していただける方の心が少しでも晴れるよう、祈っています。
(聞き手・記事執筆者 市倉愛子)
道下千穂(みちした・ちほ)
東京大学教養学部文科二類2年、情報学環教育部1年
「 人と人、心と心との繋がりを強調したい」
―江子渊《神木のテラリウム》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと2日となった。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回は《神木のテラリウム》とその作者である江子渊がテーマだ。「神道文化」というアイデアから新たな表現を模索する、神秘的かつ挑戦的な作品について語ってもらった。
「 人と人、心と心との繋がりを強調したい」
―制作展への参加を決めた理由を教えてください。
やはり制作展は自分の想いとアイデアを展示する一番のプラットフォームではないかと思ったからです。
―「0PUNK」というコンセプトについての江さんの解釈を教えてください。
「0PUNK」を分解して解釈すると「0」は人間の起源と本能、世界の原点、社会の起源を表徴していると考えました。そして、「PUNK」には私は誇張、堕落、挑発的な印象を持っています。すなわち、「0PUNK」とは創造と破壊の意味だと捉えました。
―次に作品についての質問です。江さんが《神木のテラリウム》に込めた想いやアイデアはありますか。
神道文化は「文化性がある自然」であるという考えから私達は《神木のテラリウム》という作品を考えました。 文化的意味の自然は芸術のデザインと緊密な関連性を持っています。今回は、神道文化からアイデアを得て、神様の創造力を表現するための「むすび」を作品のキーワードとしています。「物を結ぶ」という以外に、 人と人、心と心との繋がりを強調したいと思います。
「新しいバーチャル参拝の形式を提案できたら」
―作品制作過程で大変だったことがあれば教えてください。
今回作品制作中に大変だったことはコロナ禍の影響で、展示方法がすべてオンラインになったことです。《神木のテラリウム》にとって、制作展はすべてバーチャルになったことは新しいことをするきっかけにはなりますが、やはり、残念な気持ちもあります。この作品の当初のアイデアでは、対面式による人々と神木のインターラクティブ体験を想定をしていましたが、結局全てオンラインになってしまいました。そこで、私達はバーチャル参拝の話題に目を付け、作品のインターラクティブ体験を改善しました。
―読者の皆様へ是非メッセージをお願いします!
現代社会において「神木」は文化伝承の意味と同時に景観機能が付けられています。参拝者、来場者と自然、神道文化の結びとなることができ、新しいバーチャル参拝の形式を提案できたら幸いです。色々大変でしたが、良い結果が出るように頑張ります!是非来てください!
(聞き手・記事執筆者 服部渉)
江子渊(こう・しえん)
東京大学大学院学際情報学府先端表現コース所属。東京大学制作展2021Extra「0PUNK」では《神木のテラリウム》の制作リーダーを務める。運営ではデザイン班としてメインビジュアル制作等に携わっている。
「何も情報がない状態で、当日作品を鑑賞していただきたい」
―高橋初来《肖像A》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと2日となった。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回は《肖像A》、《Virtual Nininbaori》を手掛けた高橋初来を取材した。彼が制作展に参加し、二つの作品を制作するに至るまでの道のりを探る。
「自分の中では、制作展の参加に至ったのは自然な流れ」
―高橋さんは学部時代に文科三類で入学してから、大学院では総合文化研究科広域科学専攻に進学なさり、今は制作展に携わっているという経歴の持ち主です。制作展のメンバーを見渡すとこういう経歴の人はざらにいますが(笑)、外から見ると異色の経歴に見えると思います。どのような流れで制作展の参加まで行き着いたのか教えていただけますか。
学部時代はサークルで演劇と映画についてやっていたので、それらに近い位置にいるメディアアートという表現方法には以前から興味を持っていました。それに、学部時代からコンピュータグラフィックスなどの技術には触れていたので、実際に先端技術を使って作品制作をしてみたいという気持ちから、制作展への参加を決めました。また、せっかく大学院に進学したので、新しいことに挑戦したいという思いもありました。なので、自分の中では、制作展の参加に至ったのは自然な流れというか、特に違和感のない流れだと感じています。
―その流れの中で参加した制作展について質問します。Extraは「0PUNK」がコンセプトですが、高橋さんはどのような解釈をしていますか?
「0 PUNK」は破壊することの動的なプロセスではなく、破壊があったあとの何もない地平にそれでもなお残るものを眼差しているコンセプトであると捉えています。
「何も情報がない状態で、当日作品を鑑賞していただきたい」
―高橋さんは《肖像A》、《Virtual Nininbaori》という2つの作品を今回制作されています。この二つの作品はその題名からしてかなり異なる性質を持つ作品だと感じているのですが、これらを着想した経緯を教えてください。
基本的に自分の能力ベースです。自分の技術や経験、関心をフル動員して、最高のパフォーマンスを発揮できそうなものは何かと考えて思いついたのが今回の作品群という感じです。今回の作品は二つとも、ある技術を自分が使いたかったので、その使い方を別々のベクトルに活かしたようなイメージです。
題名についてもう少しお話しすると、今回の制作展では、作品の初期構想を自分で練った後、制作展チーム内で協力してくれる人を募るために内部プレゼンをするのですが、その際に複数ある自分の作品をラベリングする必要があったんです。聞き手に伝わるように。実は今回の《肖像A》《Virtual Nininbaori》という題はそのタイミングで仮につけたものだったんですね。ただ、制作が進むにつれて、作品に肉付けをしていくときに、これらの題名がより説得力を持つようになっていきました。「これを『二人羽織』って表現するの、わかりやすいな…」とか、「この作品タイトルが《肖像A》なの、かっこいいな…」みたいな。最初は後付けだったんですが、制作を進めていくうちにこれしかないってタイトルになりましたね。昔の自分に感謝です(笑)
―続いて作品についてお話を聞かせてください。まずは《肖像A》についてお願いします。
《肖像A 》については正直文字で説明しちゃうと面白くないと思うんですよね。なので、このインタビューではあまり詳しく語らないでおこうと思います。《肖像A》というタイトルとキャプションでどんな内容なのかを読者の皆さんに想像していただきたいです。それ以上は何も情報がない状態で、当日作品を鑑賞していただきたいと思います。
※この記事は《Virtual Nininbaori》紹介記事に続きます。《肖像A》の紹介は本記事でほぼ完結していますが、続編もぜひご覧ください。
(聞き手・記事執筆者 服部渉)
高橋初来(たかはし・はつき)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻所属。東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」では《肖像A》《Virtual Nininbaori》の制作リーダーを務める。また、PR班として運営にも参加。マスコットキャラクター「ゼロ破ンダ」のAR制作等を担当した。
「"MetaHumanCreator"をこの作品に利用することは、元々CGに自分が興味あったからこそできたこと」
―高橋初来《Virtual Nininbaori》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」公開まであと2日となった。本ブログでは、7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
※この記事は《肖像A》紹介記事の続きです。《Virtual Nininbaori》の紹介は本記事でほぼ完結していますが、前編もぜひご覧ください。
「この作品は児玉くんが実質リーダー」
―それでは次に《Virtual Nininbaori》についてです。「二人羽織」という題材はどこで思いついたのですか?
先ほど(筆者注・《肖像A》紹介記事を参照)も述べた流れです。初期段階で自分が描いていた作品の完成図に、他の人に紹介するための適切な言葉を当てはめた時に、自然と「二人羽織」という言葉が出てきました。
―最初は仮タイトルのようなものだったんですね。
そうなんです。でもこの「二人羽織」という題材が最後までチョイスから外れなかったのには理由があって、これは同じ制作メンバーである児玉大樹さん(東京大学大学院情報理工学系研究科所属)の影響が大きいんですね。
―詳しく聞かせてください。
彼の卒論のテーマが「融合身体」というものだったらしくて。卒論の内容は二人羽織を直接扱っているわけではないんですけど、その複数人の身体を一つにまとめるっていうところが本作品と文脈として合致していて、それがどストライクだったようなんですよ。僕が二作品とも完全にリーダーとしてやっていくのも大変だなってときに、ある程度イニシアチブをとって《Virtual Nininbaori》を制作してくれる児玉くんがいたので、いけるなってことになってここまで漕ぎ着けられました。だから実はこの作品は児玉君が実質リーダーなんですよね(笑)
「"MetaHumanCreator"をこの作品に利用することは、元々CGに自分が興味あったからこそできたこと」
―児玉さんの卒論研究が《Virtual Nininbaori》の構想とマッチしたのですね。では、高橋さん自身は、制作過程でこれまでの研究や勉強が具体的に作品制作の役に立った!という経験はありましたか。
今回の僕の作品群では、”MetaHumanCreator”という、EpicGamesが開発している「Unreal Engine」というゲームエンジンの中で使える簡単にデジタルヒューマンを作成できるサービスを利用するってことが結果的に必須条件となりました。この“MetaHuman”は発表されてまだ半年とかしか経ってないのですが、日本語の情報がまだまだ出揃わない中でなんとか扱っています。このような状況下で、"MetaHumanCreator”をこの作品に利用することは、元々CGに自分が興味あったからこそできたことなと感じます。
―制作過程でなにかエピソードがあれば教えてください。
「二人羽織」を考えていくにあたって、制作班みんなでバカ殿様を観ましたね(笑)
「結局二人羽織の何が面白いのか?」というのを議論しました。一応の結論としては、見た目は一人の人間なのに、顔役が腕役になされるがままになっているから面白いんだと。外見と実際の動きとのギャップがおかしくて笑ってしまうんだいう話になりました。
―最後に読者の皆様に一言お願いします。
誰でも是非ご覧いただきたいですが、特にメディアアートに興味がある方の感想を聞きたいですね。自分がメディアアートの本流ではないアプローチだったので、それが専門の人にどう映るかは興味があります。でもその人たちだけでなく、来ていただいたすべてのみなさまに素敵な作品を届けられるよう尽力してまいります!面白いアイデアの作品がたくさん集まっているので、オンラインですが全身で感じ取っていただきたいです!
(聞き手・記事執筆者 服部渉)
高橋初来(たかはし・はつき)
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻所属。東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」では《肖像A》《Virtual Nininbaori》の制作リーダーを務める。また、PR班として運営にも参加。マスコットキャラクター「ゼロ破ンダ」のAR制作等を担当した。
「新しくなっていく本郷キャンパスで過ごした祖父は、何を考えたのだろうか」
ー東出りさ さん《約100年前の東大生》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」がいよいよ始まる。本ブログでは、明日7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回取り上げる作品は《約100年前の東大生》。制作チームのリーダーを務める、東出りさ さんから、制作展や作品などについて語ってもらった。
「偶然にも両作品とも100年前のものをテーマにすることに」
ー今回記事で取り上げる《約100年前の東大生》はもちろん、もう一つ制作された《立体浮世絵でKABUKU!》の素材も100年前の歌舞伎がモチーフとなっていますが”100年前”になにかこだわりがあるのでしょうか。
偶然なんです!祖父が100年前に東京帝国大学の学生だったことも。残っている立版古の素材が明治期の終わりのものしかなく、両作品とも偶然100年前のものを扱うこととなりました。
「新しくなっていく本郷キャンパスで過ごした祖父は、何を考えたのだろうか」
ーなるほど。《約100年前の東大生》は東京帝国大学の学生であった東出さんのご祖父様を中心に展開される作品になっていますが、なぜ取り上げようと思ったのですか。
祖父の日記や写真集などが実家にあったのですが、いつの間にか処分されてしまっていて…。いつでも祖父について調べることができると思っていたら、急に手の届かない存在になっていました。せっかく東京大学に入学したので、実家からではなく、東京大学の方面から祖父の面影を追おうと思い、制作し始めました。
―作品制作にあたって何を参考にしましたか。
情報学環教育部の先輩に「研究は図書館に聴くことからはじまる」と教えていただき、本郷キャンパスの総合図書館に向かいました。東京大学100年史、150年史や東京大学新聞のバックナンバー、卒業アルバムや写真集など、図書館には多くの情報が眠っていました。
ー作品が完成されていくにあたり、心境の変化や新たな発見などはありましたか。
文字ばかりの、オールドスタイルな発表になってしまったなぁ、と思います。
東京大学に入学したいと思ったきっかけも、新しい媒体についての興味だったので、次の展示では新しい、違う形で表現できたらと考えています。周りにいる他の人の研究から学びとって、新しい視点を持ちたいです!
(聞き手・記事執筆者 日比杏南)
東出さんは《立体浮世絵でKABUKU!》という作品も、今回出展されています。ぜひそちらの記事も併せてご覧ください。
東出りさ(ひがしで りさ)
東京大学大学院情報学環教育部所属。制作展Extraでは《約100年前の東大生》のほか、《立体浮世絵でKABUKU!》の制作リーダー、運営では制作マネージャーも務めている。
「ずっと暖めていた作品、立版古を完成させることができて嬉しい」
ー東出りさ さん《立体浮世絵でKABUKU!》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」がいよいよ始まる。本ブログでは、明日7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回取り上げる作品は《立体浮世絵でKABUKU!》。制作チームのリーダーを務める、東出りさ さんから、制作展、そして作品について語ってもらった。
「新しい視点を持ちたくて、思い切って参加しました」
―東出さんは、東京大学大学院情報学環教育部から制作展に参加されましたが、参加しようと思い立った理由を教えてください。
まず、新しい視点を持ちたくて情報学環に入学しました。メディア関係の企業に勤めているのですが、近年のメディア業界の変遷にずっと興味があって。ちょうど社会的に、業界が姿を変えていくタイミングだと感じたことから新しい技術を使用した新事業に興味を持ち始めて入学を決めました。
制作展には、沢山の人が参加していて楽しそうだと思い、参加させていただきました。色々な人とコミュニケーションが取れるかな、と思い、思い切って制作マネージャーの係に立候補しました。
―今回の東京大学制作展2021Extraのコンセプトは「0PUNK」です。東出さんは「0PUNK」をどのように解釈しましたか。
「0PUNK」と聞くとまず最初に出てくるイメージは「宇宙空間」です。「0」という言葉には宇宙のような未知なスペースを感じます。新しく何かが誕生するような、未知なる空間での創造だと思います。
「ずっと暖めていた作品、立版古を完成させることができて嬉しい」
―《立体浮世絵でKABUKU!》、この作品を作ろうと思ったきっかけや、着想のもとはなんだったのでしょうか。
歌舞伎ファンなので、ずっと立版古(江戸時代後期から明治期にかけて流行った、錦絵を切って立てたもの)に興味があって。紙工作なども好きだったので、昨年の11月に友人を誘って一緒に立版古を制作してみたのですが、なかなか完成しませんでした。そんな矢先に制作展に出展できる機会をいただけたので、ここで完成させようと思いました。なんとか完成して出展に間に合うことができ、今までずっと暖めていた作品だったので嬉しいです。
―作品制作にあたって参考にしたものや影響されたものはありますか。
パリ初のデジタルアートの美術館『アトリエ・デ・リュミエール』に影響を受けました。立体浮世絵を作ろうと、知識を得るにつれて、明治期の終わりに歌舞伎が流行したときのような形で、作品を再現したいと思うようになりました。当時は7月の夕涼みの季節に、ろうそくや豆電球で、組立灯籠を街角や境内に飾って、楽しんだ風俗があったこと。組立灯籠を調べていると、起こし絵、闇の中で楽しむ光(陰翳礼讃)、縁台の文化や、街の人たちのコミュニケーションツール、電灯や洋ろうそくの普及、ジオラマ、プラモデル、幻燈、めがね絵などさまざまな文化と着眼点を得ることができ、とても面白かったです。
ー最後に、読者の皆さまへ一言お願いします!
遠近法も用いられて作られた立体ペーパークラフトの組立灯籠。手の細かさにも驚きます。ここで繰り広げられているのは、白浪五人男の芝居のクライマックスのワンシーン。たった100年で、一般社会からは風俗も文化も消え去っている、この時代変化の不思議さを感じてください。
(聞き手・記事執筆者 日比杏南)
東出さんは《約100年前の東大生》という作品も、今回出展されています。ぜひそちらの記事も併せてご覧ください。
東出りさ(ひがしで りさ)
東京大学大学院情報学環教育部所属。制作展Extraでは《立体浮世絵でKABUKU!》のほか《約100年前の東大生》の制作リーダー、運営では制作展マネージャーも務めている。
「いま、あの花の光のなかから再びあの人が目の前に現れたなら、なにを想いますか?」
ー三上尚美さん、篠田和宏さん《なつのはな》公開直前作品紹介
東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」がいよいよ始まる。本ブログでは、明日7月9日に作品公開を控える各制作者が秘める現在の心境や作品にかける思いについて、詳しく掘り下げていく。
今回取り上げる作品は《なつのはな》。その制作チームのリーダーを務める二人、三上尚美さん、篠田和宏さんから、制作展、作品について語ってもらった。
「文明は破壊してしまうから、僕らは文化をつくり、愛そう。」
―制作展の参加を決めた理由を教えてください。
色々ありますが、当初の目的は2つ。1つめは、制作者というより鑑賞者として、メディアアートの世界をもっと深く理解できるようなりたいという思いがもともとあり、この制作展を通して養えたらと思ったから。2つめは、いまここ(東大)で頑張っているんだぞという姿を見せたい人たちがいて、制作展で作品を発表することがその発信手段になると思ったから。
篠田くんとは役職(制作マネージャー)が同じだからzoomで会う機会が多かったのですが、Extraに出品したいけど相方を探しているときいて、じゃあ一緒にやろうよ!とわたしから誘っちゃいました。(三上)
―今回の東京大学制作展2021Extraのコンセプトは「0PUNK」です。「0PUNK」をどのように解釈しましたか。
この作品は一見、パンクしていないようにみえるかもしれません。でも、現実の過去や運命に抗っているんです。この作品は、触れると開花して、どこかに眠っていたある夏の記を想起、つまり再生されることがねらいです。この「再生」や、キャプションのポエムにもある「もうひとつの未来」が意味するのは、そこで想起された記憶は、実際の過去とは違って、いまの自分が(いいように)つくり出した思い出のはずだけれど、そこにころ希望があって、再生した思い出のなかでくらい夢をみたっていいじゃないか、という現実への反抗心です。
これはもう師匠の教えなのですが、”文明は破壊してしまうから、僕らは文化をつくり愛そう”と。だからわたしの作品も破壊ではなくて、「再生」の要素でこのコンセプトに挑みました。(三上)
「いま、あの花の光のなかから再びあの人が目の前に現れたなら、なにを想いますか?」
―《なつのはな》は東京大学制作展Extraの開催時期に見合った作品のように思います。この作品を作ろうと思ったきっかけや、着想のもとはなんだったのでしょうか。
まず、夏が感じられるモチーフを扱った作品にしたいという考えと,それを機械っぽくない見た目の機械で実現したいという考えから,作品を着想しました.(篠田)
お察しのとおり、7月開催なら夏らしいものをつくりたいと、まず安易に思いましたね笑。ただ、いつかの思い出を想起させるようなものを作りたいというのはもともと自分のなかにありました。次に、篠田くんの技術を活かせるように、彼にはたくさんお話をきかせてもらったのですが、技術的な面以外でも自分の開発しているものに対して、彼はちゃんと魅力や相手のリアクションを語ることができて、とても惹かれたので作ろうということになりました。(三上)
―作品制作にあたって参考にしたものや影響されたものはありますか。
最初に自分のなかに浮かんだ夏のモチーフが風鈴だったので、ガラス細工やステンドグラスをぼーっと眺める時間が増えたり、タイルのデザインをしている友人に相談したりしました。それから、東大の中庭でひとりフジファブリックの曲をリピートしながら世界観やコンセプトを練っていきました。(三上)
ー最後に、読者の皆さまへ一言お願いします!
オンラインでの展示ではありますが,ハードウェアを伴って現実世界とインタラクションのできる作品となっています。(篠田)
「夏の記憶」とただひとこと聞いたときに浮かんだ記憶と、この作品から想起される記憶は同じものでしたか? 記憶の彼方から思い出されたあの瞬間は、現実のあの瞬間とは違うものかもしれません。よく思い出せないもどかしさも覚えるかもしれません。でもいま、あの花の光のなかから再びあの人が目の前に現れたなら、なにを想いますか?(三上)
(聞き手・記事執筆者 日比杏南)
三上尚美(みかみ なおみ)
東京大学大学院学際情報学府文化・人間情報学コースに所属。制作展Extraでは制作マネージャーのリーダーも務めている。
篠田和宏(しのだ かずひろ)
東京大学大学院学際情報学府先端表現情報学コースに所属。制作展Extraでは制作マネージャーを務めている。
―久保田愛海、三上尚美 制作展 2021 Extra お仕事紹介
遂に本日、東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」が公開された。本ブログでは、制作展を支えるプロジェクトマネージャー(制作展全体をマネジメントする役職)に焦点を当て、その仕事内容を紹介する。
今回は、久保田愛海、三上尚美のお二人に仕事内容について取材を行った。
「制作展は、人それぞれの”楽しさ”を共有する空間」
―実際に運営してみて感じたことを教えてください。
久保田:制作展に運営として携われることへの嬉しさを一番に感じています。各班の作品が出来上がるまでにそれぞれのカラーが出ていて、その過程をみることができて楽しかったです。一方で、50人以上での運営のため、全体の進行度合いや空気感を把握することは思っている以上に難しかったです…。対面だと話せるような"ちょっとした雑談"がオンラインではできないので、こまめにお互いに連絡を取り合うのが大切なのだなと感じさせられました。今後は少しずつ対面の実施も増えるといいなと思っております。
三上:どの役職もリーダーを中心にみんな積極的に関わってくれて、毎日どこかでzoomが開かれているくらい。だからまだ直接会ったことのないメンバーがほとんどなのに、自分のなかではすでに、みんなをいつも顔を合わせているクラスメイトのように思えていて、不思議な感覚…。すごく嬉しいことですよね。想像以上に没頭していて、初回の授業から今日までもう制作展に携わっていない日がない!新たな青春の1ページがみつかったようです。
―制作展の特色や魅力を教えてください。
久保田:0PUNKというコンセプトの中で、制作者の思いとそれぞれの持つ知識・技術が融合していく過程が魅力だと感じています。
三上:東大制作展は毎年違うテーマ、メンバーで開催されています。今年はどんなカラーか、どんなふうに魅せられるのか、楽しんでいただきたいです。各作品はもちろん、各パートが議論を重ねてつくりあげてきた展示空間全体にも注目していただきたいです。
「0PUNKとは、破壊ではなく、新しい「何か」の創造」
―あなたにとって、「0PUNK」とは何を意味しますか?
三上:コンセプト決めのディスカッションには初期からずっと参加していたので、今「私にとっての0PUNK」を定義するのは難しいですが、「PUNK=破壊」ではないという思いがあります。0PUNK以外のテーマ案でも、不自由さや制約、既存の概念に積極的に立ち向かうことをテーマとしているものが多かったからこそ、「創造」の意を込めた「0」が合わさったと思っています。
久保田:日常生活を送る中で「何かおかしい」と感じた経験が誰にでもあると思います。その「何か」に注目し、新しい視点を提示する・問題提起するのが0PUNKだと思っています。
―最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
三上:サッカーって、ゴールの瞬間だけみるよりもせめてゴール7分前からみていたいじゃないですか。それがExtra!つまり、Extraをみたほうが11月のTrueももっと楽しめるんです!…といえるような展示になったらと思っています。
久保田:この度は貴重なお時間の中、制作展に来場くださり誠にありがとうございます。私たちは4月から集まり限られた時間の中で、作品制作に加えWebページやチラシの作成、SNSでのPRなどをを行ってきました。これらのことは、専門分野、持っている技術、これまでの経験・知識がさまざまな人が集まる学環だからこそ実現できる展示だと思います。
十人十色な私たちの織りなす作品を鑑賞し、0PUNKに込められたメッセージを感じていただけますと幸いです。
(聞き手・記事執筆者 市倉愛子)
久保田愛海(くぼた・まなみ)
東京大学大学院学際情報学府文化・人間情報学コース所属。
三上尚美(みかみ・なおみ)
東京大学大学院学際情報学府文化・人間情報学コース所属。
―東出りさ、篠田和宏 制作展 2021 Extra お仕事紹介
遂に本日、東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」が公開された。本ブログでは、制作展を支えるプロジェクトマネージャー(制作展全体をマネジメントする役職)に焦点を当て、その仕事内容を紹介する。
今回は、東出りさ、篠田和宏のお二人に仕事内容について取材を行った。
「丁寧かつ発想力豊かな現場、多様性が交ざりあう」
―実際に運営してみて感じたことを教えてください。
東出:コンセプト決めで細かく丁寧に話し合いをして、さらにいいものを作ろうという、参加者の気概に感激しました。みなさまのアイデア出しのおかげで、とてもよいコンセプトが出来上がりました。また、それぞれのチームが優秀で仕事が早く丁寧で、ミーティングに参加すると発想の豊かさにも感動しました。さすが東大生!に日々、感じ入ってます。
篠田:自主的に行動してくれる方が多く、各班のリーダーもしっかりマネジメントしてくれるおかげで、とても助かっています。これからもみんなが円滑に活動しやすくなるような環境を整備していきたいと思っています。
―制作展の特色や魅力を教えてください。
東出:コンセプトのせいなのか、時々、刺激的な発想と出会うことがあり、うれしく思います。やんちゃで元気な作品に期待したいです。
篠田:学際情報学府だけでも幅広いバックグラウンドを持っている方が多いですが、それにさらに様々な研究科や教育部の方まで多様な人が一つになって展示会を作り上げていることが魅力だと思います。
「展示会場全てにこだわりが。一緒に楽しく弾けよう」
―あなたにとって、「0PUNK」とは何を意味しますか?
篠田:固定観念を破壊するという要素よりも、何か新しい主張や表現をこの制作展を通して創造してくという要素の方が圧倒的に重要だなと思っています。
東出:破壊からの創造というテーマに加えて、0なのにパンクするという、矛盾もおもしろいと思いました。コロナ禍で開催されること、DXが声高に騒がれる中で、時代を表す印象的なコンセプトになったと感じています。デジタルでアナログな熱さが伝わるといいなと思っています。
―最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
篠田:オンラインという制約が多い中での展示ではありますが、オンラインだからこそできる面白い展示手法があると思うし、多くの人に見にきてもらいやすいと思って頑張ります!ぜひ色んな作品をご覧ください。
東出:発想豊かな、すばらしい作品郡です。未熟なところもあるかもしれませんが、鷹揚にご見物いただき、いっしょに楽しく弾ける気持ちになっていただければ、上上吉です。作品自体や参加者と大いに交流いただき、フィードバックをいただけると、そのコミュニケーション自体が作品になっていくと思います。大いに書き込み等、展示にメッセージをお送りください。きっと、その貴重なご意見は11月の展示へと反映されていくでしょう。
(聞き手・記事執筆者 市倉愛子)
東出りさ(ひがしで・りさ)
東京大学学際情報学環教育部所属。
篠田和宏(しのだ・かずひろ)
東京大学大学院学際情報学府 先端表現情報学コース所属。
「できることなら何でもするというのが仕事」
―Producer 藤波徹柊 制作展 2021 Extra お仕事紹介
遂に東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」が公開された。本ブログでは、制作展の総指揮を担うプロデューサーに焦点を当て、その仕事内容を紹介する。
今回は、メインプロデューサーである藤波徹柊に取材を敢行した。
「できることなら何でもするというのが仕事」
―制作展への参加を決めた理由を教えてください。
今まで表現というものに真剣に取り組んだことがなく憧れがあったので、そういう機会を欲していたためです。また単純に、いろいろな興味を持つ人が集まる場だと感じ、そういう場に身を置きたかったからです。
―役職の仕事内容について簡単に教えてください。
一言で言えば、全体の舵取りをして制作展を成功に導くこと。そのためにできることなら何でもするというのが仕事です。具体的には、授業の設計、先生と学生との橋渡し、運営体制の整備、各作品のキュレーションなど内容は多岐に渡ります。
―実際に運営の仕事をしてみて感じたことを教えてください。
月並みですが一人で全部を管理するのは到底不可能で、PMや各班のリーダー陣のおかげでプロジェクトが回っていることを強く実感しています。プロデューサーには、常に制作展全体を俯瞰でみておく大局的な視点と、運営がうまく行くために必要な細かい作業を誰よりも地道にこなす泥臭さが求められています。しかし、私はまだまだどちらも中途半端だなと感じています。Trueまでに立派なプロデューサーになれるように努力していきたいですね。
「全体の目的に最適化されることなく、いまの自分が考えることを自由に表現できる場所」
―続いて制作展そのものについての質問です。「0PUNK」というコンセプトの藤波さん自身の解釈を教えてください。
現実への抵抗、当たり前への抵抗。今自分が置かれている状況や現実、世の中を取り巻く当たり前を疑い、新たな解釈を持ち込む余白を0から作り出す。抽象度の違いはあれど、誰もが持つことができる姿勢そのものだと解釈しています。
ーその「0PUNK」をテーマに、制作展には魅力的な作品が集まっています。今回気になる作品はありますか?
「ゼロマインド〜0歳児パンク〜」です。まさに先ほど述べた、「いまの自分が考えること」が表現されている作品だからです。詳しくは作品紹介や制作者の小山さんのインタビューに譲りますが、そちらをご覧いただければ言わんとすることが伝わると思います。さらに驚きなのが、小山さんはCG制作の経験がなく、制作に合わせて独学で勉強されたということです。その事実に先生が舌を巻いていらっしゃったのが印象的でした。他の作品も負けず劣らず魅力的なので、ぜひ色々な作品を見て回ってもらいたいです。
―最後に、藤波さんが考える制作展の魅力を教えてください!
一番の魅力は、制作展全体として大きな目的をそこまで明確に定めていない分、「全体の目的に最適化されることなく、いまの自分が考えることを自由に表現できる場所」が保たれている点だと思います。これまでの人生で培ってきた専門性や技術力、思考をベースに、ただただ自分が面白いと思うもの、やってみたいことに挑戦でき、共感してくれる同級生が見つかり、そしてその道のプロフェッショナルである先生方からふんだんにアドバイスを頂けるという場は、周りを見渡してもそんなに多くは存在しないんじゃないでしょうか。
また、運営面の面白さもあります。こちらは、制作とは異なり全体の目的が明確に決まっている中でどれだけ自由に飛び跳ねることができるかという面白さです。各班のリーダーが工夫してくれて、メインビジュアルをコンペ形式で決めたり、ホームページの新たな機能を模索し続けたりと、メンバーの個性と努力が掛け算になって結実していく様を見てきました。ぜひそんな作品以外の部分にも注目してみてほしいです。
(聞き手・記事執筆者 服部渉)
藤波徹柊(ふじなみ・てっしゅう)
東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻所属。東京大学制作展2021Extra「0 PUNK」プロデューサー。
(聞き手・記事執筆者 服部渉)