• 荒川忠一 教授 挨拶

ご挨拶

2005年の第4回制作展からこの授業に携わっている私としては、制作展がこれほど大規模になるとは想像もつきませんでした。それ以前の制作展は、工学部2号館展示室のみで行なわれており、技術的意味合いの強いものが多く出展されていました。しかし美術系出身の私から見ると、それが「アート」「作品」と言われることに違和感を覚えました。アート作品には、鑑賞者が作品を見る空間によってもたらされる緊張感、場の雰囲気が重要です。作品は細部にわたり魅せることへの妥協があってはなりません。

私が授業を受け持つことになって最初に行なったことは、空間の雰囲気作りでした。これまでの展示では、機材は授業用の机にそのまま置かれ、配線もむき出しになっていました。そこで、作品を体験するラウンジのような空間を提案しました。機材は壁を立てて内側に隠し、鑑賞に必要なもののみを表に出し、ラウンジの雰囲気を演出するため、操作台や雰囲気に合ったイス等もすべて学生たちと制作しました。

授業のはじめの頃は、学生から、作品を並べれば済む話なのになぜそこまでやるのか、等の批判も受けました。しかし、会場が徐々に出来上がり、作家の作品が空間に馴染んでいくにつれ、学生たちもその重要性を理解し、結果として皆が納得のいく質の高い展示となりました。多くの美術関係者にも来場いただき、美術的観点からも大変評価の高いものとなりました。

その後、制作展は段々と規模を増していき、今回の展示では約50名もの学生が関わるほどになりました。学生を惹きつけるこの授業の魅力とはなんでしょうか。学生が主体となって開催されるこの制作展では、受け身ではなく、自ら動かなければ授業自体とてもつまらないものになってしまいます。1人1人が得意分野で動くことで、展示は良いものになり、最終的には大きな達成感を得られます。学生がプロデューサとなり、会場、デザイン、広報、WEB制作、プレス対応、記録、設備などのチームを作り、全体の統一感を出すために連携を取って制作展を作り上げています。一人一人の努力が最終的に“制作展”に集約し、1つの結果として表れる達成感こそが、授業の大きな魅力の一つとなっているのではないでしょうか。

制作展の授業では、失敗しても構わないから大胆な発想をぶつけて欲しい、と伝えてあります。社会に出ると失敗は許されません。失敗を恐れるより、学生のうちに大きなことに挑戦し、自信を持ってもらいたいと考えています。今回の展示に関して、正直未熟な点は多々あるかと思います。不満点も多くあることでしょう。その時はアンケートを通してご意見を伝えて頂ければ幸いです。制作展の授業では、この展覧会にお越し頂く鑑賞者の皆さまが、本当の意味での「先生」なのです。

最後になりましたが、御協力いただきました教職員の皆さま、今回の制作展を一緒に作り上げてきた学生の皆さまに、心より感謝の意を表します。

情報学環の “環”のこころを大切に考える ”制作展”の発展に今後とも期待します。

東京大学 大学院 情報学環 コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム 人材養成 特任助教
メディアアート作家 美術博士 アトリエオモヤ代表
鈴木太朗